最終更新日:2008/10/14

〔C〕看取りと医師法

松本 武敏

 医師の間でさえ「死亡前24時間以内に診察していないと、死亡診断書を書くことは出来ない」という誤解がある。いつ亡くなるかということを予測することは、どれだけ経験を積んだ医師でも困難なことなので、在宅での看取りを考えた場合、「毎日の往診」を想像される医師が多数おられることと思う。確かに、尿量の低下などによりあと数日の予後となれば、訪問回数が増えることもあるが、法律的には「診察後24時間以上経過した死」でも、診療中の患者は死後の診察で死亡診断書を書くことが出来るし、時間の長さについての規定もない。従って、在宅での看取りの一晩を家族が行い、翌朝、医師が診断書を持って家に伺うことは現在行われていることで、夜中に訪問看護師がエンゼルケアを行っているということも、看取りが予測される病状において事前に医師から指示があれば一連の流れの中で行われていることであり、それが医師法違反となることはないのである。

さらに具体的なことでは、死亡時刻の考え方を紹介すると、死亡時刻を、死亡を医師が確認した時刻ではなく、家族が記録した呼吸の止まった時刻とする考え方もある。また、ほどなく到着する医師による死亡確認時刻であるという考え方もあり、これについても法的な規制がされているわけではないのである。また死亡確認をする医師については、複数医師体制の場合、初めて訪問診療をおこなった副主治医が、その患者の死亡診断書を書くことに法律上の問題はない。勿論、診療録に関して主治医と副主治医の間で取り決めが必要なことは言うまでもない。ただ、心情的には「かかりつけ医」の主治医に「看取り」に立ち会って欲しいという希望はあると思われる。本稿では「在宅での看取り」に関して、医師法第20条を紹介しながら、理解を深めていただきたい。 

以上よく尋ねられることをまとめたが、そもそもの医師法第20条の解釈について公にされている文書を引用して解説しておくので、確認願いたい。

医師法第20条医師は、自ら診察をしないで治療をし、若しくは診断書若しくは処方せんを交付し、自ら出産に立ち会わないで出生証明書若しくは死産証明書を交付し、又は自ら検案しないで検案書を交付してはならない。但し、診療中の患者が受診後二十四時間以内に死亡した場合に交付する死亡診断書については、この限りではない。

 ここで重要なのは、但書に関する以下の局長通知こそが、誤解や戸惑いの解決になるという点である。

 

医師法第20条但書に関する件
(昭和二四年四月一四日 医発第三八五号)
(各都道府県知事あて厚生省医務局長通知)

標記の件に関し若干誤解の向きもあるようであるが、左記の通り解すべきものであるので、御諒承の上貴管内の医師に対し周知徹底方特に御配慮願いたい。


1 死亡診断書は、診療中の患者が死亡した場合に交付されるものであるから、苟しくもその者が診療中の患者であった場合は、死亡の際に立ち会っていなかった場合でもこれを交付することができる。但し、この場合においては法第二十条の本文の規定により、原則として死亡後改めて診察をしなければならない。

  法第二十条但書は、右の原則に対する例外として、診療中の患者が受診後二四時間以内に死亡した場合に限り、改めて死後診察しなくても死亡診断書を交付し得ることを認めたものである。

2 診療中の患者であっても、それが他の全然別個の原因例えば交通事故等により死亡した場合は、死体検案書を交付すべきである。

3 死体検案書は、診療中の患者以外の者が死亡した場合に、死後その死体を検案して交付されるものである。

 

「死亡診断書」と「死体検案書」の区別は、前者は、診療中の患者が死亡した場合に交付されるものであり、後者は、死亡の原因が診療にかかわる疾病と全然別のものである場合や、診療中の患者でないものが死亡した場合に死後その死体を検案して交付されるものである。また、旧国民医療法では、死亡診断書は交付の際に診察をしないでもこれを交付する事が認められていたが、医師法では、たとえ診療中の患者であってもその者の死亡時が、最後の受診から起算して24時間を超える場合には、改めて診察をしなければ死亡診断書を交付し得ないこととされた。これは、診察をしないで交付する場合をなるべく制限しようとする趣旨である。

いづれにしても在宅死の取り扱いは病院死と全く同様である。在宅医は、異常死論議の余地がないように配慮し、必ず遺体を確認することが求められるし、訪問診療中から「死を予告し、死に向かって起こりうる症状をよく説明し、医師以外のスタッフでもよいので、頻回に訪問することが重要だろう。在宅では、医療者と患者・家族との信頼関係のもと、常識的な「看取り」への移行がなされているということである。


昨今の看取りも含めた在宅医療が推進されている背景のもと、ここで取り上げた課題については
「実践 在宅看取り 死亡診断マニュアル」
(勇美記念財団 在宅医療を推進するための会編 座長 太田秀樹 編集委員長 舩木良真)や
平成19年度版の「死亡診断書(死体検案書)記入マニュアル」
(厚生労働省 大臣官房統計情報部 医政局 財団法人医療研修推進財団)が

よくまとまっているのでご参照願いたい。

<参考文献>

1)死亡診断書(死体検案書)記入マニュアル(財)医療研修推進財団

http://www.pmet.or.jp/syoseki/sibou/sibou.htm http://210.193.118.11/sites/www.pmet.or.jp/sibou/H19sibou.pdf

2)「医師法第20条と在宅医療 最後の診察から24時間以上経過していても死亡診断書は書ける」

  岡嶋道夫(東京医科歯科大学名誉教授)
  http://www.hi-ho.ne.jp/okajimamic/m4111.htm

3)http://www.zaitakuiryo-yuumizaidan.com/suishinnokai2006.pdf
  実践在宅看取り 死亡診断書マニュアル